今回は、小説『黒猫館の殺人』綾辻 行人(著)のご紹介!
本作品は、人気シリーズ「館シリーズ」の第6作目となります。黒猫館を管理している老人がある事故が原因で記憶喪失に。シリーズの名コンビ、鹿谷と河南らとともにこの老人のルーツを探る。
「館シリーズ」では、館内に施された様々なトリック(仕掛け)が見どころです。本作品に関しても大胆なトリックが仕掛けられていて読み応えのあるストーリー展開です。
INFO
タイトル:『黒猫館の殺人』
著者:綾辻 行人
出版社:株式会社 講談社
発売日:1996年6月
メモ:「館シリーズ」の六作目
あらすじ

大いなる謎を秘めた館、黒猫館。火災で重傷を負い、記憶を失った老人、鮎田冬馬の奇妙な依頼を受け、推理小説家・鹿谷門実と河南孝明は、東京から札幌、そして阿寒へと向かう。深い森の中に建つその館で待ち受ける、“世界”が揺らぐような真実とは!?シリーズ屈指の大仕掛けを、読者は見破ることができるか?
『黒猫館の殺人』裏表紙より
読書感想

墓場まで持って行けない
小学生の頃に流行した交換日記は、単なるノートのやり取りではなく、特別な意味を持つコミュニケーションツールであった。専用の交換日記には南京錠を取り付けることができ、他人に見られないようにする仕組みが備わっていた。この鍵は単に情報を守るためというよりも、「自分たちだけの秘密を共有している」という特別感を演出する役割を果たしていたのである。
また、中身にはプロフィール欄が設けられており、名前や誕生日といった基本情報に加え、好きな食べ物や好きな人など、当時の子供にとっては非常にプライベートな内容が記されていた。この「好きな人」という項目こそが最大の魅力であり、交換日記を特別な存在へと押し上げていたと言える。
しかし、そのように厳重に守られているはずの内容であっても、いつの間にか周囲に噂として広まってしまうことがあった。この現象は、情報の秘匿性が必ずしも維持されるものではないことを示している。むしろ、人は秘密であればあるほど、それを誰かに共有したくなる性質を持っているのではないだろうか。特に子供の社会においては、信頼関係と好奇心が入り混じり、結果として「内緒」が「噂」へと変化していくのである。
準備万端で理性を保っている
常に理性を保っている人は、周囲に落ち着いた印象を与えやすく、集団の中では自然とリーダー的存在となることが多い。感情に流されず状況を俯瞰できる姿勢は、判断の安定性を生み、集団を適切な方向へ導く力として評価されるからである。しかし、このような理性的な振る舞いは、生まれつきの資質だけで成り立っているわけではない。多くの場合、事前の準備やシミュレーションの積み重ねによって支えられている。起こりうる事態をあらかじめ想定し、その対処法を用意しておくことで、表面的には動じない態度が実現されているのである。
だが、現実の世界ではすべてが想定通りに進むわけではない。予測不能な出来事に直面したとき、それまでの準備が通用しない場面も必ず訪れる。このとき、真の意味で理性を保てるかどうかが問われる。準備された行動をなぞることは多くの人に可能であるが、前提が崩れた状況で柔軟に対応する力は別種の能力である。むしろ、常に理性を重んじてきた人ほど、想定外の事態に対して脆さを見せることもある。なぜなら、決められた枠組みの中で最適解を導くことには長けていても、その枠組み自体を疑い、逸脱する経験が乏しいからである。
したがって、理性を保つことと臨機応変に対応することは必ずしも一致しない。真に優れたリーダーとは、準備による安定性と、想定外に対する柔軟性の双方を兼ね備えた存在である。理性とは固定されたものではなく、状況に応じて形を変えるべきものである。準備に裏打ちされた冷静さに加え、不確実性を受け入れる余白を持つことこそが、より高次の理性と言えるのである。

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