今回は小説『マスカレード・イブ』東野 圭吾(著)のご紹介!
「マスカレード」シリーズはこれまでも読んできましたし、映画も見に行っています。本作品は、「マスカレード」シリーズの第二作目のようですが、主要人物である新田刑事とホテルで働く山岸が出会う前の話が綴られています。
一つ大きな事件を取り扱うだけでなく、細かな謎も描かれており、一つ一つの事件解決も楽しく読み進めていくことができます。
書籍の情報を以下にまとめます▼
INFO
タイトル:『マスカレード・イブ』
著者:東野 圭吾
出版社:株式会社 集英社
発売日:2014年8月
メモ:本シリーズの主要人物が出会う前の物語
あらすじ

ホテル・コルテシア大阪で働く山岸尚美は、ある客たちの仮面に気づく。一方、東京で発生した殺人事件の捜査にあたる新田浩介は、一人の男に目をつけた。事件の夜、男は大阪にいたと主張するが、なぜかホテル名をいわない。殺人の疑いをかけられてでも守りたい秘密とは何なのか。お客様の仮面を守り抜くのが彼女の仕事なら、犯人の仮面を暴くのが彼の職務。二人が出会う前の、それぞれの物語。
『マスカレード・イブ』裏表紙より
読書感想

香りのタイムマシン
香りというものは、視覚や聴覚以上に人間の記憶と密接に結びついている感覚である。ある特定の香りを嗅いだ瞬間に、何年も前の出来事が鮮明に思い出されるという体験は、多くの人が経験していることであろう。懐かしい香りは、まるでタイムマシンのように私たちを過去へと連れ戻し、感情や風景までも呼び覚ます力を持っている。
私の幼少期を振り返っても、香りが記憶と強く結びついていた場面が多く存在する。例えば、友人の親が所有する車に乗せてもらった際、独特の車内の匂いがどうしても好きになれなかったことを覚えている。その香りは芳香剤とも、タバコとも言えぬ何とも形容しがたいもので、子供ながらに「なぜこの匂いが気にならないのだろう」と疑問を抱いた記憶がある。
香りの好みは主観的であり、個人の生活環境や記憶と密接に関係している。そのため、自分にとって不快な香りも、他者にとっては安心感をもたらすものである場合もある。香りが無意識のうちに人間関係や空間の印象に影響を与えているという点は、日常生活の中では見過ごされがちだが、実は非常に重要な感覚領域なのである。
私も知らないあの人の努力
情報過多の現代社会において、知らず知らずのうちに他者と自分を比較してしまう人が増えている。SNSやメディアの発達により、他人の成果や生活が常に視界に入るようになった結果、「隣の芝は青い」という感覚はさらに強化されている。もはや隣の芝を見すぎるあまり、自分の芝が何色かさえわからなくなっているのが現状である。
このような時代においては、他人との比較ではなく、過去の自分との比較を重視する姿勢が求められる。成長や幸福感は、外的評価ではなく自己認識に基づくべきであり、自分自身にとっての有意義な行動や達成感を大切にすることが、豊かな人生を築く鍵となる。
しかし現実には、他人との比較によって評価や地位が決まる場面も多く存在する。どれほど努力を重ねたとしても、それが外から見えなければ評価に結びつかないこともある。自分の努力は自分にしかわからず、それが報われない場面に直面するたび、人は葛藤を抱える。
だからこそ私たちは、そのような悶々とした感情とどう向き合うかが重要となる。評価されなかったからといって自分の努力の価値が失われるわけではない。また、他人の背後にも、自分には見えない努力や苦悩があるかもしれないと想像することで、感情を少しでもやわらげることができるのである。他人との比較を避けきれない時代だからこそ、自分と静かに向き合う時間がますます大切となっているのだ。

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