今回は小説『ユージニア』恩田 陸(著)のご紹介!
とある名家で起きた大量毒殺事件。その関係者に対するインタビュー形式に物語が進行していきます。大量毒殺事件も不気味な事件ですが、このインタビュー形式で物語が進行していくことも読みながら気持ち悪さを感じます。
ミステリ小説読むと、自然と事件の真相を自分なりに考えてしまいます。しかし、『ユージニア』を読むと、途中から事件の迷宮に迷い込んでしまい、訳が分からない状態となってしまいました。
書籍の情報を以下にまとめます▼
INFO
タイトル:『ユージニア』
著者:恩田 陸
出版社:株式会社 KADOKAWA
発売日:2008年8月
メモ:日本推理作家協会賞受賞作品
あらすじ

「ねぇ、あなたも最初にあったときに、犯人ってわかるの?」こんな体験は初めてだが、俺は分かった。犯人はいま、俺の目の前にいる、この人物だーーーーーー。かつて街を悪夢で覆った、名家の大量毒殺事件。数十年を経て解き明かされてゆく、遺された者たちの思い。いったい誰がなぜ、無差別殺人を?見落とされた「真実」を証言する関係者たちは、果たして真実を語っているのか?日本推理作家協会賞受賞の傑作ミステリー!!
『ユージニア』裏表紙より
読書感想

においの感覚
学校の授業が終わり、少し焦る気持ちを抱きながら校舎に設置されている公衆電話へと急ぐ。すでに3人の生徒が公衆電話の列に並んでいた。やっと自分の番が回ってきた。ランドセルから電車の写真がプリントされたテレホンカードを出す。
テレホンカードを公衆電話に差し込んで受話器を耳に当てる。「プー」という音を聞いてから自宅の電話番号を押す。以前、「プー」という音が鳴る前に電話番号を押したことが原因で電話がうまくつながらなかったことがある。
しばらく呼び出し音が鳴ると、「はい、横山です」という聞きなれた声が聞こえた。「もしもし、修二だけど、今日、耕太の家に遊びに行ってもいい?耕太の家はいいらしんだけど」同級生の耕太の家に遊びに行くことを母親に了承を得る。
耕太と二人で学校の駐車場で待っていると、耕太のお母さんが車で迎えに来てくれた。私を含むほとんどの生徒は、学校から徒歩圏内で登下校が可能だった。しかし、耕太は学校から離れた場所に引っ越しをしたみたいで、いつもお母さんに車で送り迎えをしてもらっていた。
「よろしくお願いしまーす!」と声をかけながら耕太の家の車に乗り込む。すると、耕太の家の車の独特なにおいがする。私はその独特なにおいが苦手だった。子供ながらに車専用の芳香剤のにおいではない、そんな推理をしていた。
これまでも何度も耕太の家には遊びに行ったことがある。そのたびにこの車に乗せてもらうのだが、学校から耕太の家までの約15分の間でどれだけ息を止められるかが、私のひそかな挑戦でもあった。もちろん、息を止めることで、このにおいをかがないようにしていたのだ。
難しいことを難しく伝える
目の前にいる営業マンは、持参してきたパンフレットを私に見せながら、いかに自分たちのサービスが素晴らしいかを回りくどい表現を使って話してくる。さらに鼻につくのは、彼の話している言葉を文章にしたとき、そこに句読点の隙間を与えないほどの早口なのだ。
早口なことに加え、専門用語の多い説明では、私のような素人にはサービスのすばらしさなんて伝わらない。しかし、私の理解してませんよと伝えている表情なんてお構いなしに彼の表情は生き生きとしている。
彼にとって、私にそのサービスを売り込むことは最優先ではないらしい。つまり、難しいことを難しい表現を使って相手に伝えている自分に悦になっているのだ。しかも彼の中には、他人の考えなんて存在しない。「お客様の立場からすると面倒な管理なんてしたくないじゃないですか」「お客様は最新技術を使ったサービスの知識があまりないと思います」
確かに言っていることはごもっともだ。しかし、営業マンの憶測だけで塗り固められた形で商談を進められても私の中で現実味を感じることはできない。そんなことを考えながら話を聞いていたため、会話の内容の3分の1も理解していなかった。
満足げな表情をして私に微笑みかけてきたところを見ると、どうやらしゃべりたいことは全てしゃべりつくしたようだ。私は「とりあえず、私だけでは判断ができないので、社内で検討をさせていただければと思います。何かご依頼させていただくことがありましたら、いただいた名刺に記載されている連絡先にご連絡させていただきます」断りのテンプレートのような回答だ。
それでもその営業マンは満足した表情を浮かべたまま、「また何かありましたらご連絡をお待ちしています」と言って帰っていった。彼にとっての仕事は大成功だったのだろう。
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