今回は、小説『方舟』夕木 春央(著)のご紹介!
この作品は帯にもある通り、講談社ミステリとして2025年、最も売れた作品です。山奥にある地下建築内で繰り広げられるミステリ。いかにも様々な事件が起きそうなシチュエーションですよね。
この作品を最後まで読んでみて、あと100ページくらい読みたい!と感じました。それくらい作品内の世界に引き込まれながら一気に読み進めることができました。
書籍の情報を以下にまとめます▼
INFO
タイトル:『方舟』
著者:夕木 春央
出版社:株式会社 講談社
発売日:2024年8月
メモ:2025年講談社ミステリで最も売れた作品
あらすじ

柊一は友人らと共に山奥の地下建築で夜を越すことに。だが、地震によって出入り口はふさがれ地下水が流入し始めている。そして、その矢先に起こった殺人。だれか一人を犠牲にすれば脱出できる。生贄には、その犯人がなるべきだ。ーーーーー犯人以外の全員が、そう思った。本格ミステリー界に新風を吹き込んだ雄編。
『方舟』裏表紙より
読書感想

寝坊しても飛び起きない心理
朝の寝坊は本来であれば強い焦りを伴う出来事であるはずだが、実際には不思議なほど落ち着いた感情に支配されることがある。頭では遅刻の重大性を理解しているにもかかわらず、身体や思考はどこか現実から切り離されたように静かである。この感覚は単なる寝ぼけではなく、一種の心理的防衛反応と捉えることができる。すでに取り返しがつかないかもしれないという状況に直面したとき、人は過度なストレスから自分を守るために、現実の緊急性を意図的に鈍らせるのである。
特に興味深いのは、どうでもよい予定ではなく、重要な用事ほどこの感覚が現れやすい点である。重要度が高いほど失敗の代償も大きく、そのプレッシャーは強烈である。ゆえに、心はその重圧に耐えきれず、現実感を一時的に希薄にすることで均衡を保とうとする。これは、極限状態における人間の自然な適応とも言えるだろう。冷静さを装うことで、混乱やパニックを回避しようとしているのである。
また、この現象は経験値とも深く関係していると考えられる。日常的に起こりうる遅刻であれば、過去の経験から対処法を導き出すことができる。しかし、取り返しのつかない可能性を孕む状況においては、過去の経験が通用しない。そのため、脳は「対処不能」という判断を下し、現実の深刻さを直視することを避けるのである。結果として、「それほど大ごとではない」という感覚が生まれる。
中途半端な忙しさ、度を超えた忙しさ
緊急性の高い出来事が立て続けに起こると、人は強い焦りに駆られ、思考と行動が追いつかないまま目の前のタスクを処理していくことになる。その過程では、自分が何をしているのかを十分に認識する余裕もなく、ただ流れに身を任せるように時間が過ぎていく。そして一日が終わる頃には、心身ともに疲労が蓄積し、同じ状況が再び訪れることへの恐れすら感じるようになる。この段階ではまだ、自らの疲れや不快感を自覚できているため、正常な感覚を保っていると言えるだろう。
しかし、さらに負荷が増し、限界を超えた状態に至ると、人は逆に奇妙な高揚感を覚えることがある。いわば、マイナスが極まることで別の次元に移行するような感覚である。過度な忙しさは本来であれば不快であるはずだが、それを超えた瞬間、思考は簡略化され、余計な感情が削ぎ落とされる。その結果、ある種の没入状態、すなわち「ハイ」に近い精神状態へと変化するのである。この状態では、疲労や不安すら感じにくくなり、ただ目の前の作業をこなすことに集中する。
この現象は一見すると効率的にも思えるが、決して健全な状態ではない。むしろ、自分の限界を認識できなくなっている危険な兆候である。人は本来、不快や疲労といった感覚を通じて自らを守る仕組みを持っているが、その感覚が麻痺してしまうと、気づかぬうちに深刻なダメージを蓄積してしまう可能性がある。

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