【独自感想】『十戒』夕木 春央

小説

今回は小説『十戒』夕木 春央(著)のご紹介!
閉鎖された環境で起こった殺人事件。だれもが自分の安全を守るために知りたいこと、それは当然犯人はだれなのか?しかし、犯人からの要求は、犯人を特定するような言動は禁止ということ。決まった日数を問題なく過ごし続けることができれば、身体の安全は約束する。

極限状態の中で、何事もなく決まった日数を過ごす。心の中のカウントダウンは寝ても覚めても意識することでしょう。全くもって経験したくない状況だからこそ、物語を通して、その結末に興味がそそられます。

書籍の情報を以下にまとめます▼

INFO
タイトル:『十戒』
著者:夕木 春央
出版社:株式会社 講談社
発売日:2025年8月
メモ:殺人犯を見つけてはいけない、ミステリー

あらすじ

殺人犯を見つけてはならないーーーーーーー伯父が所有していた枝内島に持ち上がったリゾート開発計画。里英は父や関係者らとともに島に渡ったが、翌日、不動産会社の社員が死体で発見される。そして、見つけた紙片に記されていたのは、島に残された者たちに課された「十戒」だった。『方舟』夕木春央の傑作が文庫化。

『十戒』裏表紙より

読書感想

開き直りの利用

人間は追い詰められたとき、ある種の「開き直り」によって普段以上の力を発揮することがある。失うものがないという感覚は、恐怖や不安を取り払い、行動の制限を外す。これを前向きに活用すれば、これまで踏み出せなかった一歩を後押しし、状況を打開する契機となる。しかし、この開き直りが悲観と結びついたとき、その力は極めて危険な方向へと転じる。どうせ悪いのだから、さらに悪くなっても構わないという思考は、自制を失わせ、行動の歯止めを消し去るのである。

この状態に至った人間は、常識や倫理に縛られなくなる。一般の人間が持つ「やってはいけない」という制約が機能しないため、予測不能な行動に出る可能性が高まる。その結果、周囲の人々を巻き込む形で事態が拡大し、個人の問題が社会的な危機へと変質することもある。ここに、負の開き直りが持つ最大の危険性がある。

さらに厄介なのは、このような状態にある人間が、恐怖や衝動によって他者を圧倒する点である。一般の人間は理性や常識に基づいて行動するため、予測不能な狂気に対して適切に対処することが難しい。その結果、一時的ではあっても力関係の逆転が生じ、狂気に支配される構図が生まれるのである。

開き直りは本来、中立的な心理状態である。それを成長や挑戦の原動力とするか、破滅へと向かう引き金とするかは、その人の思考の方向性に委ねられている。だからこそ、開き直りの持つ力を自覚し、それをどのように扱うかを見極めることが重要である。理性を手放した開き直りは、未知の力を生むと同時に、取り返しのつかない結果をもたらす可能性を秘めているのである。

凄腕万引きGメンがいる店

万引きGメンの役割は、万引き行為を現行で確認し、証拠を押さえたうえで摘発することにある。そのため、事前に声をかけて抑止するのではなく、あえて犯行が成立する瞬間を待つという行動が基本となる。この仕組みは法的な裏付けに基づいており、未遂の段階では処罰が難しいという現実が背景にある。したがって、万引きGメンの存在意義は「予防」よりも「検挙」に置かれてきたのである。

しかし、この構造には一つの矛盾がある。万引きGメンの実績が高いということは、それだけ店内で万引きが発生しているという事実を意味する。個人としての能力は評価される一方で、店舗全体としての安全性や風土には疑問が残ることになる。本来、理想的な状態は万引きが起こらない環境を構築することであり、その意味では事前の抑止に力を入れる方が、社会的には価値が高いとも言える。

では、なぜ抑止ではなく検挙に重点が置かれてきたのか。それは、成果が可視化しやすい点にあると考えられる。捕まえた件数という形で実績が明確になる一方、未然に防いだ件数は測定が困難である。評価基準が結果に依存する以上、行動も結果を生む方向へと最適化されるのは自然な流れである。

しかし、今後求められるのは、検挙と抑止の両立である。監視カメラや店内レイアウト、従業員の声かけなどを通じて、万引きが起こりにくい環境を整えることが重要である。万引きGメンも単なる摘発者ではなく、抑止の役割を担う存在へと進化すべきである。真に評価されるべきは「捕まえた数」ではなく、「起こさせなかった数」であると言えるのである。

コメント